起業失敗談
たとえ仕事だとしても、やりたくないことからは早く手を引いた方が良い
2021/12/28 起業失敗談
株式会社KAMAKEのすすめ 北山貴彦 社長
【事業内容】
下記4つの強みを生かし、プログラミング研修や教育事業を展開しています。
・プログラミング
・セミナー、教室のコンテンツ開発
・セミナー、教室の企画と運営
・経験豊富な教育活動コミュニティ
プログラミング教育活動を始めたことで、本業が自分の価値観と合っていないと気付いた
──今に活きている失敗はありますか?
そうですね。起業した後とサラリーマン時代にもよろしくなかった時期はありましたね。
──え?よろしくなかった時期?
起業という選択肢に至るまでに色々と悩んだりしました。もともとは半導体メーカーのエンジニアとして働いていて、その時は私は起業をする気は全然なかったんです。
半導体が好きな性分で、高校の時に携帯電話を分解したりしていたんです。半導体チップがパソコン一台分の機能を担っているという記事を読んでから、半導体をもっと知りたいなと思って、大学で研究して。そのまま半導体のメーカーに勤めて楽しく働いていました。
ただ、その時にエンジニアと一緒にボランティアとしてプログラミング教育活動を始めたんですよ。
──それは会社とは別にですか?
事業ではなかったんですけど、会社でやっていたんです。
──なぜそのプログラミング教育の活動を始められたんですか?
当時は会社がリストラをしていたこともあり雰囲気が暗かったので、明るくしたいなと思っていました。社会起業家や教育にも興味があったのもありますし、子ども達にプログラミングを教えることでエンジニアに達に物作りが好きだったという原体験を思い出してもらうきっかけになればと。
自分が最先端の製品を作るためだけじゃなくて、直接サービスとして子供たちにスキルを提供するというのはお客さんと遠い存在のエンジニアじゃなかなかできないので。その経験はすごくプラスになるんじゃないかなと思いボランティア活動を始めました。
起業する3年ぐらい前ですかね。そのボランティア活動も仕事も楽しくて順風満帆だったんですけど、そこからどん底に落ちたんです。
──なにがあったんですか?
ボランティア活動の方が色んな人に出会えるので楽しくなってくると、本業が面白くなくなってしまったんです。
その頃はまだプログラミング教育が全然広がってない時期だったので、色んな学校や、団体と一緒にやりましょうと話が広がっていきました。
だんだんと9時から17時の8時間を面白くないものに費やすことがすごく耐えられなくなって……
自分の価値観がより明確になればなるほど、本業が自分のやりたいこととズレているというのがわかってきたんです。
ボランティア活動に少しでも時間を増やしたいなと思いつつ、じゃあ実際どうするんだろうと考えている時が一番苦しかったですね。
──すぐに起業という考えにはならなかったんですか?
その時は起業がすごくハードルが高いものだと思っていました。
なので、まずは会社でそのボランティア活動を本業にできないかと考えました。社内で人材教育をやっている部署に移るとか、転職してプログラミング事業をやっている会社に移るのかとか色々考えましたね。
でも、どれもパッとしなかったんですよ。転職したとしても自分がやりたいように自由に動けるかっていうとそうじゃないよなと。
自分がやりたいことに費やせる時間を確保したかったので、サラリーマンのままだと会社の方針に従わないといけないというのがちらついて、多分満足いかないんじゃないかなとか。
──起業でも転職でもなく、他にどんな選択肢が?
15人いたメンバーも空いた時間にボランティア活動をやってくれていました。上司の目も気になったので、会社公認の活動にしたら少しは楽になるかなと思って執行役員の方に直談判しに行ったんです。
でも、「今も活動できているなら、そんなの別に俺に言わなくたっていいじゃん。どうして欲しいの?」と言われまして。「うーん、そうだよな。」と(笑)
これはサラリーマンの人のあるあるだと思うんですよね。なにかやりたいことを提案した時に、そもそも論を突っ込まれるみたいな。
結局、総務部のポケットマネーで支援してもらえるようにつなげてもらったりとか、社内教育の事業部につなげてもらって、公の活動みたいにはなりました。
そこから1年間はできたんですけど、本業を9時-17時で働かないといけないことは変わりなかったので。そこが解決されないまま、1年間を過ごしたというのは1番苦しかった時代でした。
──起業された後に振り返って、もうちょっと早く起業しておけばよかったと思いますか?
そうですね、そこはあまり思わない部分もあります。当然踏まないといけないステップだったかなと。その1年間があったので自分の価値観を見直すことはできたと思いますね。
ただ、当時思っていた「楽しいからそのままでいいや。」はちょっと適当すぎたのかもしれないなとは思っています。
──その1年のおかげで起業が現実味を帯びてきたんですか?
役員に直談判してボランティアが公認の活動のようにはなったんですけど、その半年後ぐらいからやっぱりまた苦しくなって。そこからいよいよ「やっぱ起業しかないのかな。」と考え始めました。
一緒に活動してるメンバーに、「こんな風に考えてるんだけど、一緒に起業に向けて準備しませんか?」と話してから、半年間かけて起業の準備を始めました。
その時も結局、まだ覚悟を決めてなかったんですけどね。
──準備を進めていたのにですか?
本当に会社を辞める気はまだなかったです。粛々とやりつつ「ある程度自分の給料を稼げるようになったら会社を辞めればいいや。」みたいな感じでした。
起業コンペの最終面談で「会社辞めないの?覚悟が足りないよ」と言われ落選
社会起業家塾のあるコンペに参加したんです。そのコンペに通るとボーディングメンバー、役員をつけてくれるとか、100万円の支援金をいただけるというので応募しました。
最終選考までいったんですけど最後の面談で、審査員に「あれ、まだ前の会社辞めてないの?辞める気ないような計画になってるけど、これどういうこと?」って言われて。
「えっと……」みたいな(笑)
──ハハハハ。なんでバレたんですか?
まだ前の会社に所属と書いてありましたし、その後も退職予定とか一切書いてなかったからです。
生活費がないと事業は回らなくなってしまうので、辞めることが最善じゃないと当然のように思ってたんですよね。結構、普通にコンペに通るかなと思ってたんですけど、落ちちゃって……
確かに、僕がその人の立場だったらそんな中途半端な人に何か支援をしたいとか思わないし、覚悟が足りなかったなと思いました。
──会社に残っていた理由はお給料だったんですか?
そうですね。でも、新聞配達でもしたら生活費はなんとかなるなし、お金を理由に自分の選択肢を決めちゃうのはすごいもったいないなと思い始めて。
──そんなに考え方って変わるもんなんですね。
そうですね、変わりましたね。1年間悩んでいた時は給料とかよりも自分の時間をどこに投資するか、自由に使える時間が欲しいということだったのにお金を理由に人生を決めようとしてることがすごい矛盾に感じました。やっぱりちゃんと独立してやろうと思ったのはそこからですね。
──起業するまでに色々な葛藤があったんですね。
そうですね。結局起業するまでに2年ぐらいかかってるかな。結構追い詰められないと自分の行動を変えられないのが、自分の行動パターンだなと今では思います。
──でもそれみんなそうなんじゃないですか?私も多分そうだと思います。
そうですね。やっぱ今が楽しいとこのままでいいやと思って。今もまだまだ事業は小さいですけど、成り立ってるんでね。まだまだもうちょっと続けてみようと思っている節はあるのでそこは反省です。
まだその経験から活かせてないですけどね。それが自分の癖だなと改めて失敗から学ぶところですね。
起業後、自分たちには集客力がないと気付いた
──起業後、自分のやりたいことができるようになって理想と現実のギャップはなかったんですか?
そうですね。初年度は全然うまくいかなかったです。
お付き合いしてた会社もプログラミング教室とか、塾が多かったんです。なので、最初はBtoCのプログラミング教室をやろうと思って、始めたんですよ。
自分達で企画して教室開いたり、他の団体と一緒にやったりというのを一年間やってたんですけど、全然どれもうまくいかなかったんです。
半年ぐらい経って「自分達に集客力がない」ということに気が付きました。
どちらかというと僕らはエンジニアコミュニティ、教えるスタッフとか講師とかノウハウはあったんで、それが強みであって集客は全然強くないし、やりたいかっていったら別にやりたくはないなと。
そこからはBtoBに完全に切り替えました
集客力があって、マネタイズもできるけど、理系関連の教育の教室だったり、そういうノウハウがない、運営することができないっていう団体と一緒にやるのが一番相性がいいなと。
BtoCの事業は全部お断りしてBtoBしかやらないことにしたら、やっと会社っぽい体を成すことができるようになったという感じですね。
──初年度あまりうまくいかなった時って、どういう心境だったんですか?
焦りと苛立ちがありましたね。
──苛立ちなんですか?
「こんなことをしたいわけじゃない、こんなことで終わりたくない。こんなことやりたくねぇ。」と思っていました(笑)わがままを通して、「一切俺はこういうのはやらん。」と言って副社長とかに迷惑をかけてましたね。
──えー!副社長と仲悪くならなかったんですか?
いやいや、優しかったですね。僕もだいぶ自由人だと思われてるので「仕方ないよ。自由にやらせるしかないよ。」みたいな感じで(笑)
ただ、僕もちょっと覚悟を決めないといけないなと思っていたので残り2ヶ月でBtoBに切り替えて「200万円を確保できなければ辞める」と宣言しました。
その2ヶ月で200万円をなんとか集められたらまだ将来もあるなと思ったし、そこでがむしゃらにやって集まらないんだったら、多分いくら頑張ってもまだその段階に至ってないんだなと。
──どうやって売り上げを確保しようとしたんですか?
少しでも繋がりのあるお客さんや知り合いに提案しに行きました。まぁ全然相手にされなかったりとかももちろんあったんですけど、数十万単位の案件を2、3個取ることができてなんとかもちました。
そういえば、当時200万円のノルマを達成しようと提案に行って失敗したお客さんが今年、1番の大口のお客さんになったんですよ。
──そんなこともあるんですね!
商談後も担当者とプライベートでお付き合いをしていたら、その会社が新しく理系教育やろうとしてるということで「改めて提案しませんか?」と言われたんです。
それで提案しに行ったらお付き合いする事が決まって。その商談取りに行って失敗したのは全然無駄じゃなかったと思いますね。やっぱり記憶に残ってもらうのはすごく大事なんだなと。
やっぱり営業は頑張らないといけないなと改めて思ってます。
やりたくないことからは早く手を引いた方が良い
──イライラしてる時は人間関係がうまくいかなかったりすると思うのですが、副社長と方向性がすれ違うことはなかったんですか?
自由にやらせてもらっているのは本当にありがたいですね。その代わりその人にはできないものを提供しているつもりではいます。
お互いやりたい事をやるために独立したので、そこは大事にしようとしていますね。だいぶ僕もわかりやすい、見えやすい人間なんで。周りの人をそうやって巻き込んじゃっているかもしれない(笑)
周りの人に知ってもらうためにも、やりたい事は声を大にして言うべきだと思います。やりたい事をやろうとしている人は一見するとすごくわがままなんですけど、そういう人は責任感があるなと僕は思うんです。逃げ出そうっていう発想がないので、絶対にやり切るんですよね。
やりたくもないのに良い顔してやろうとしてる人が一番危険だなと思ってます。
──なんでですか?
やっぱりモチベーションや仕事の質も下がりますし、どこかで辞めたくなるんですよね。
なので、僕らは正直に聞きます。「これ、本当に興味あります?」って(笑)
やりたくない事だと絶対にやらない方がいいので。その人の価値観に近いものかどうかは確認してやりますね。やりたくないことをやっている時は、その人も逃げるし僕も逃げちゃうので (笑)
自分達もBtoCからある意味逃げたので。そこは自分達も反省して、本当にやりたい事じゃない時は早く手を引いた方がいい。相手に対しても手を引かせた方がいいっていうのは一つ失敗から学んでることですかね。
だから、経営している中でもお互いにやりたいことをやれるようにする。それが続けるポイントになってるのかなと思います。
──自分の仕事が本当にやりたいこととズレていると気付いても、行動に移すのは勇気がいりますよね。「やりたくないことからは手を引いた方が良い」という教訓は、迷った時に決断する一押しになりそうです。
インタビューありがとうございました!