仕事のやらかし
【経営での失敗】取り込み詐欺に遭った経験から、取引に関するルールを設けるように!
2021/12/22 仕事のやらかし
株式会社A.Sスポーツ 下平美貴 社長
【事業内容】
バッグ・縫製加工品の商品企画・製造・修理・輸入
健康・福祉関連商品の開発販売
自分は詐欺に遭わないと思っていたらダメ
──会社を経営されている中での失敗はありますか?
取り込み詐欺に遭ったことですね。
──取り込み詐欺?初めて聞きました。
取り込み詐欺というのは商品のお金を払わないで逃げるというパターン。
──そういう経験をしている経営者の方って実は多いんですか?
表に出ないだけで、多いと思う。商売はサービスや商品の納品があって、回収があってお金がチャリンって入って初めてそこで成り立つ。この一連なんだけども、大多数の世の中は売ることがばかりで回収することが比較的忘れられてしまうんです。
詐欺は昔からあって形を変えながらも続いている、古くて新しいビジネスモデルですね。
商売が始まった時からずっといろんな形で社会の変化とともに、詐欺のスタイルはどんどん巧みに変わっいてくんですよ。
人間と人間が商売してる間はたぶんずっと残ってくと思いますね。大多数の人は自分には関係ないと思っているけど、ひっかかってしまう場合がある。
──その取り込み詐欺の犯人は見つかったんですか?
取り込み詐欺というのはいわゆる犯人という形ではなくて、一見すると正しいビジネス上にあるので、初めから相手がいるんです。
例えば、僕のところにその人が来て「こういう商品を買いたいんです。」と発注書が来るわけ。
商売のやり方の中には、「初めてだから最初にお金払ってね」という場合と、「うちは月末締めで翌月払いだからその条件でお願いします」という2つのパターンがある。
後者の場合、先に商品を納めてから請求書を発行してという流れになるんだけど、取り込み詐欺の場合は請求書を送ってもその日に払ってくれない。相手は商売の状況が悪くなって「いや、お支払いができないんですよ。」と言うんだけど、最初から払うつもりはない。
これが取り込み詐欺という形です。
──それをされた時には対処とかできるんですか?
基本的にはできるんだけども取り返すことはできないですね。
なぜかというと、支払いをしてくれないから法的手段をとろうとしても、すごく手間とお金がかかる。マイナスになってしまう場合もあるんです。もしくは相手もプロなので「いやいやいや、払いますよ。払いたいんですよ、でも払うお金がないんです。」というのが一番強い。
仮に50万円の請求だったら「毎月1000円ずつ払い続けます。」とかですね(笑)。
そのうち払わなくなって会社ごと潰しちゃうというやり方です。それが古典的な取り込み詐欺っていうやり方。
──下平社長がその詐欺に遭われたのは何年前ですか?
今から25年前ぐらい前です。その時は僕も仕入れ先から仕入れたんだけど、キャンプ用品とトランシーバーかなんかだったと思います。
──それを発注したけど結局、払ってもらえなくて?
払ってもらえなかった。それは会社の経営が悪くなってお支払い出来ないではなくて、初めから払うつもりはなかったんでしょうね。
──被害額は大きかったんですか?
当時で50万円ぐらいだったかな。
非常にラッキーだったのは取り込み詐欺だってことにすぐ気がついたこと。これは本当に奇跡的なんだけど、僕の仕入れた商品が会社のすぐ近くのバッタ屋の店頭で売ってたんです。それで、すぐ仕入先から「うちの商品なんであんなところで売ってるの?」と電話がかかってきて気付きました。
それに気が付かなかったら多分被害は10倍になってたと思う。
取り込み詐欺のやり方というのは締め支払いまで1ヶ月と猶予があるわけなので、「こいつはいけるぞ。」と思うと立て続けに仕入れてくるんです。
普通は気づかないから圧倒的に被害金額が膨らんでしまう。
──そういう話は同業の方したりするんですか?
商品を扱っていれば、みんな大なり小なり経験してるよ。多分今でもあるんじゃないですかね。ネット上でもいちいちクレームつけたりしてお金を払わないというのは多々いますね。
──それを防ぐ方法はありますか?
防ぎようはなくはない。会社が大きくなったりするとその販売に関するルールを設ける。なぜならこういう経験をたくさんしてるから。「必ず売買契約書を交わしなさい、もしくは取引の最初の会社は必ず入金後に売りなさい。これを半年間とか1年間やりなさい。」というルールがちゃんとできてる。取り込み詐欺を防ぐにはちゃんとしたルールがあれば相当数防げる。
──そうか。でも大きい会社とかじゃなくてルールを作ってなかったとしたら……
そういうこと。だから相手も小さい会社を狙うんです。
怪しいなという気持ちは50%あって「これ大丈夫かな?」と思うんだけど、良い情報を取り入れて「いや、俺の判断間違ってないよな。」と自己を正当化しようとしてしまう。
──確かに。自分の決定したものって尊重したくなりますよね。
尊重したくなる。プライドがあったりするから。で、これが例えば一営業マンとかっていう話だったら「そんなもん、おかしい」とすぐに言えるんだけども、経営者レベルだとプライドがあるんですよね。
あともう1点は、売った商品が換金性が低いということ。例えばうちが宝石やってるとか高価なもんだったら絶対ありえない、こんなこと。
──詐欺する方からしたら高価な物の方が儲けがありそうじゃないですか?
「こんなもん売ったところでたいして儲からないだろう。相手も二束三文だろうな。」という気持ちがあって売ったんだけども、今考えてみると取り込み詐欺をする側は仕入れ値がゼロだから1000円でも2000円でも売れれば儲かるんです。
──当時はインターネットで調べてることは難しかったんですか?
今はインターネットあるから、すぐ相手の会社調べたりできるけど、当時はないから調べようがなかったんです。
自分の感性しかあてにならない(笑)。
──この会社は怪しいなというのはどうやってわかるんですか?
当時はネットがなかったから、電話かかってくるんだけどすぐわかる。なぜわかるかというと小さい会社なのに社名がすごくでかい会社みたいな名前がついているから(笑)
他には、取り扱っている商材や何をしている会社かがわからないというのも怪しいですね。経営者は結構、第六感が働くんです。触らぬ神に祟りなしですね。だからその後は騙されない。
──その後も怪しい会社から電話かかってきたりはあったんですか?
いっぱいありました。相手の事務所に行ったこともあるけど、自分の経験値のルールがあるから怪しいというのはすぐわかる。
──そんな詐欺に遭ったら人間不信になりそうです。
いや、ならないよ。よくあるもんそんな話は。
──え、ならないですか!?
失敗したなと思ったのと同時に、ルールをちゃんとしようと。取引のルールを確立できるよね。
──その後にルールをちゃんと設けて?
もちろん設けてる。詐欺に遭わなかったらルールを作るきっかけになったかな。
サラリーマンで働いていた会社は今でいうブラック企業だった
──経営される前はサラリーマンとして働いていたんですか?
サラリーマンをやっていたのは1年とちょっとぐらいです。スポーツの問屋で働いていました。
今でいう本当にブラック企業で、夜中の2・3時まで働く会社だった。
スキーの用品を扱ってたんだけど、そのシーズンになると終わるまでやらせる社長だったので、夜中の2・3時まで働いたこともありました。だから、離職率がめちゃくちゃ高かった。でもそういう環境で働くと長時間働くということに対して免疫ができるんですよ。
──ハハハ、そこで免疫ができたんですね(笑)
良し悪しだよ。でも、経営者になるにはそういうことは必要だと思う。
──経営者の人って夜中まで仕事をやっているイメージあります。
正しいかどうかはわからないけども時々あるかもしれないよね。でも夜中までやるというのは効率が悪いので正しいと思えないですね。経営者とは言えないよな。
多分それはどっちかというと、経営者というよりも作業人に近いだろうな。やっぱり経営者って組織だとか人をうまく使って、本来やるべき仕事に注力するのが経営者だと思います。
やるべき仕事というのは次の未来の仕事を考えること。例えば、カフェにいてボーっとしながらでも仕事はできるはずなんです。それが本来の姿だと思いますね。
──今でいうブラックな会社で働いていて、辞めたいなと思わなかったんですか?
辞めたいなとは思っていましたね。
この株式会社A.Sスポーツは僕の父親が始めた会社で、将来は跡を継ごうという意識があったのでなんとなく終わりが見えたから頑張れたんだろうなと。そこで5年10年のプランは考えられなかったですね。だから離職率も高かったんでしょうね。
──最近、私のまわりには鬱になっている人が結構多いです。
もちろん昔もあったんだろうけど、理想と現実のギャップの間に入っちゃうんでしょうね。
自分の描く理想像。でも自分はこうやってる、これしかできない。劣等感というか現実をみて、常に自分自身の中でのやり取りがネガティブになっていくという。
──それは現代の特徴なんですかね?
現代の特徴だと思う。社会全体がわがままになってるんだと思う。自分中心に考えてる、常に。相手がいるはずなのに相手を通して自分、自分、自分となっていると思う。
──たしかに、私もそうかもしれないです。そうじゃない人ってどんな感じなんですか?
思いやるとかさ、単純に。基本的なことですよ。そんなに特別なことではないと思う。それがどんどん薄れてると思う、今の世の中。
──今だったら自分で遊ぶものとかもいっぱいあるし、自分だけで完結できちゃいますもんね。
ネットもありますしね。ネットニュースの情報と今の自分を比べる。インスタを見れば煌びやかな世界があって自分はこんな世界だってね。
──なにか良いアドバイスはありますか?仕事で鬱になってしまったり、仕事が辛いなと思ってる人に。
「辛いな」か。みんな多分辛いんじゃないの、きっと(笑)僕も日々感じますよ。でも経営者だと未来が保証されてないから。
組織にいても会社潰れちゃったらもちろん大変なんだけども、組織にいれば来月の給料は確実に入ってくるわけで。でも我々はひょっとしたらゼロの可能性もあるから、そういういつも崖っぷちをずっと歩み続けてる。
仮にさっきみたいに取り込み詐欺で相当数被害に遭ったと。でも従業員がいたら自分の持ち分から払わなきゃいけない。その責任が経営者なんだろうなと思うね。
──そんな崖っぷちだとしても、毎日仕事をして売上を作らないといけないじゃないですか?心が疲れちゃう時はないんですか?
僕の場合は、家庭が非常に円満な状況なので、振り向けばそこはほっとする部分があるというのは大きいと思います。
多分、家庭もぐちゃぐちゃだったらおかしくなってるなと思う。これは間違いない。
──それを両立するのはなかなか難しそうです。仕事以外に自分がほっとできる場所を持っておくと仕事で辛くなっても心強いでしょうね。
インタビューありがとうございました!