仕事のやらかし
「別に新しい仕事に挑戦しなくても」と両親から引き継いだ会社の上で胡坐をかいていた。
2022/01/21 仕事のやらかし
株式会社来光工業 玉利 一 社長
【事業内容】
来光工業株式会社
・標準生爪・特注生爪の製造販売
自社ブランド Definitely
・「キャンプ道具にも超精密を」コンセプトにしたブランド
デザイン、超精密加工に拘り、キャンプライフに素晴らしい体験を約束。
周りからのアドバイスもどこか他人事だった
──今に活きている失敗を教えてください!
よく会社経営していると人から勧められたり、こういう仕事をやってみないかと誘われることがあるんですけど、今まではどちらかというと逃げてきたんです。
特に経営をするようになってからは「今は忙しいから無理です」と断っていました。
──忙しい以外にも断ってきた理由はなにかあったんですか?
私は祖父の代から会社を受け継いでいて3代目なんです。自分がやりたくてやりだした仕事ではなくて、家業がそういう仕事だったから自分もやる。両親がやっていた会社を引き継いでお客さんも引き継いで、仕入れ先も全て引き継いで。なので、半分レールが敷かれていたんです。だから余計なことをやらなくても、既存のことをやっていれば会社は回ると。
──だから余計に新しいことをやってもみようというのはあまり無かったんですね。
もちろん新しいお客様の開拓もやりますけど、何か自分から能動的に動いて、まったく違うことをやらなくても良かったというか。だから何か人に勧められても、別にやらなくてもいいやと思っていました。
「自社製品だけ、部品の請負加工ばかりしてもきっと未来はないよ」とアドバイスをされてもどこか他人事で自分には関係ない。今上手くいってるから大丈夫と他人事に捉えていましたね。
お客さんも大手が多いので、そんなにガツガツ営業しなくても仕事はある。そんな中、コロナ禍でオンライン会議が増えてきたことで時間に余裕ができたり、会社の業績もあまり良くない時期があったりして。
その時に「玉利さん、こういう話があるんだけど受けてみない?」という話をちょっとやってみようかなと思うようになって、オリジナルブランドを立ち上げました。
失敗してもいい!とりあえずやってみたらいい。
──どんなオリジナルブランドを?
これが全然、本業と違ってキャンプ用品のブランドです。会社の中でも私が一人で立ち上げた組織で、まあなんかやってみようかということでやり始めました。
──本業の部品加工とはジャンルも全然ちがいますね!
本業の技術を生かして「超精密加工をキャンプ道具にも」をコンセプトにしてキャンプ用品を作っているんです。そして、最初に作ったのが1人キャンプ用の鉄板です。
──1人キャンプが流行っているから1人用の鉄板を?
そうです。私も趣味でキャンプをやるんですよ。それで自分にできることって何だろうと考えて、鉄板を作ってみようかと。マクアケというクラウドファンディングで、今年の1月にはじめて、金額としては大したことないんですけど、128万円。
──サポーターがお金を出してくれてってことですよね。
出してくれたんです。ただ事業規模からして、我々の会社は年商5億円の会社なので、120万と言ったら会社全体で考えると本当に微々たる売上だったんですけど、私にとってはすごく大きな出来事でした。
──オリジナルブランドを立ち上げたときの社内の反応は?
今は皆理解をしてくれています。立ち上げたときは、「社長が急にキャンプ用の鉄板を作り出して会社の中で肉を焼いて食べてる!社長が変なことやりだした!」みたいな(笑)
──じゃあ最初はあまり理解を得られなかったんですね。
うん。「何だろうね?」という感じでした。その後にもうひとつ「ソロキャンプ用五徳」という商品を出しました。
これ自体はグッドデザイン賞を受賞したんです。
実はこういう一連のプロジェクトを進めている中で、中日新聞さんにも声をかけてもらったんです。デザイン専攻の学生さんのデザインを製造業の会社が形にして世に送り出して売るということをやっているんです。
──そんな展開になっているんですか!?
自社ブランドやってみないかと誘ってくれた人がいたり、マクアケというところがあるからやってみたらとか、商品もこういうデザイナーさんがいるから紹介するよとか。
中日新聞さんも、そこと僕が学生さんと一緒にやろうってやり始めたのではなくて、違う友人がやっていて一緒にやらないかと言われて「あ、面白そう!」と思って始めたんです。
やってみようと最初に一歩を踏み出したのは自分自身だけど、それ以外のことは周りから誘われてという感じですね。
今となれば「もっと早くやればよかった」と思います。
──自社ブランドの立ち上げ後は考えが変わったんですか?
それまでは利益に直結するかしないか、という部分で考えてしまっていました。
逆に今はチャンスがあれば、今まで自分が関わってこなかったことであったり本業とは関係なかったりしても、比較的積極的に関わるようにしています。
──新しいことを始めるのって勇気がいるので躊躇してしまいます。
失敗してもともとでやってみる。自分には関係ないからやらない。じゃなくて、別にやったからって何も失うものないから。
時間は失うけど(笑)
時間くらいしか失うものないから、やって失敗したとしても良いんじゃないかなと思います。
私がちょうど1年前に鉄板を1人で作ったときには、こんなことになるとは夢にも思わなかったですし。まさかキャンプ用品の注文が1か月2か月先まで埋まって、作り切れなくなるなんて想像もしてなかった。だからもっと早く、「こういうことやってみたら?」って勧めてくる友人とか、経営者の先輩とかいればやってみる。別に失敗したっていいんです。
僕の場合、たまたま上手くいったから良かったけど、でも上手くいかなかったとしても、もっと早くやっておけば良かったと思うと思います。
──じゃあ、どっちにしろやってみて損はないということですね。
やってみて損することはないと思うよ。
でも、会社に慣れて10年もやっていると「こういうのやってみない?」とか言われると、その先のことを考えちゃう。こんな大変なことがあるかなとか、これはあまり利益にならないしなあとか。
色々考えちゃったりするんだけど、新しいことだったらまずやってみることが、今となってはすごく大事なことなんだと思えるようになりました。
──失敗してもいいと言われると気が楽になります。とりあえずやってみようで始めたキャンプ用品の自社ブランドからこんなにも新たな展開があるなんてびっくりですね!
インタビューありがとうございました!