起業失敗談
10回の転職を繰り返し、勢いで独立した経験から言えること
2021/12/01 起業失敗談
株式会社あさみコンサルティングファーム 森田昇 社長
システムエンジニアとして10回の転職と20以上の客先常駐プロジェクトを経験してきた森田社長。その経験から、現在はSESに頼るIT企業の問題を根本から解決するサポートをしている。
独立前に自分自身をどう売っていくのかを考えておくべきだった
──一番のターニングポイント、この失敗が今に活きていることってありますか?
何の準備もなく勢いだけで独立したことが一番の失敗でしたね。
前職はエンジニアで2018年5月に独立したのですが、きっかけは単に会社を辞めたかったから、なのです。
もともと中小企業診断士という資格を活かして、某資格スクールの資格講座の講師として副業しながら仕事をしていたのですが、ある時その某資格スクールから悪魔の電話が来まして……(笑)
──悪魔の電話とは?
2018年4月から、大学の講師が足りないから週に1、2回講師ができないかという依頼が来たのです。もちろん大学だから講義は昼間ですが、興味があったのでやってみたいなと思い、会社に掛け合いました。有給を使うから週に1日いかせてくれないかと。
そうしたら、有給を使うならとOKが出まして。取り敢えず1か月間有給を使って大学講師をやってみたところ、これはおもしろいな、続けたいなと思い始めたときに、某資格スクールからもう何日か出てほしいと依頼がありまして。
それで週に2日を大学にしたい、週3日勤務にして両立させてもらえないかとダメ元で社長に相談したところ、もう副業はいっさい辞めて現場に出ろと返されました。私がいた会社はエンジニア業界でのいわゆる下請けだったので、SESという形態での客先への常駐派遣ばかりでした。
客先の現場にいったら顧客の手前、副業はさせられない、だから副業はいっさい辞めろと言われたので、「分かりました、それでは会社の方を辞めます」と(笑)
──え、そんなにスパッと辞められるものなんですか!?
ストレスがものすごかったので、もともと会社もエンジニアを辞めたかったのです。当時は身体にも影響が出ていました。会社まで電車で1時間の通勤だったのですが、その間電車に乗っていられなかった。腹痛のため途中下車してトイレに行くことが日課、通勤時間が30分増えるみたいな……
帰りは普通に帰れていたので、間違いなく精神的なものですよね。身体が出社拒否。実は私、プログラミングが嫌いだったのです(笑)
──なのにどうしてエンジニアに?
手に職をつけたかったからです。
今までに10回転職していますが、手に職があったからこそ転職先にも困らなかった。その点では、エンジニアを選んで良かったと今では思っています。
──「辞めます」と言って、その副業の仕事をメインに?
はい。もう会社辞めるから、と某資格スクールに話しましたら、大学の案件を週4日に増やして頂けまして。さらに資格講座のコマもつけてくれました。それで一定の収入が確保できたから、というのが独立した経緯です。
でも、それがそもそもの失敗でした。
しばらくは大学講師をしながら、中小企業診断士の資格を活かせる仕事を見つけられないかなと思っていましたが……
大学は夏休みがありまして。前期である7月が終わった時点で仕事がなくなったのです。
完全に仕事がゼロになりました。
夏休みが明けたら後期の仕事があることはわかっていましたが、大学講師は薄給です。週に4日、1限目~夜の資格講座までやって月収20万円ほど。独立前と比べて手取りが半分、それも夏休みや冬休みに入ると収入がゼロになる。
この時に気がついたのです、自分が仕事の取り方や稼ぎ方を知らないことに。大学講師の仕事があるから独立はした。したけれど、ビジネスのビの字も知らなかった。中小企業診断士だから仕事を得られる、食べていける。そう勘違いしていたのです。
もともと技術職だったので、営業の経験もない。自分自身をどうやって売っていけばいいのかもわからない。独立して4か月目のことでした。
資格に頼ろうとしていたことが間違いだった
──それはピンチですね、どうしたんですか?
まずは中小企業診断士として成功している人に稼ぎ方を聞いてみようと思い、中小企業診断士協会を頼ってみました。ある機会に事業部長へ相談してみたところ、3年間協会に奉仕してくれたら仕事をまわしてあげるよと真顔で言われました。
──奉仕とはただ働きってことですか……?
それで協会を辞めました。今は体制も変わっていると思いますが、当時はなんだここと思いました。
そもそも資格やその協会に頼ろうとしていたのが間違いでした。資格に頼るのではなく、資格をビジネスに活かさないといけなかったのに、そのビジネスの仕組みを知らなかったのです。
次にビジネスで成功している方に話を聞きに行こうと思い、起業塾や起業コンサルタントの方にたくさん会いに行きました。
その中で自分とバックボーンが似ていて、個人事業で成功している方がいないかと探している時に、ロールモデルとなる方を運よく見つけられました。その方にコンサルしてもらいつつ、ビジネスとは何か?を一から学んでいきました。
2018年9月から学び始め、12月に初めて中小企業診断士としての顧問契約が取れました。
──どんなコンサルをしてもらったんですか?
自分が何者なのか、どういう強みがあって、どういう方に何を提供できるのか。いわゆるコンセプトを作ることと、どうやって広めていくのかをみっちりやりました。
顧問契約が1件取れたことで、やっと一息付けた感じでした。
また、同時並行で研修会社へ営業も行いました。大学講師もそうでしたが、講師業もやってみたかったのです。私と業務委託契約して講師として雇いませんか?と数十社へメールと電話をしました。
その結果、2018年10月に運良く1社と契約できました。
ところが、実際に研修案件ができるようになったのは翌年の6月です。初登壇まで8か月以上かかりました。
──なんでそんなに期間が空いたんですか?
私が何者かを、研修会社の担当営業に理解してもらうことをしていなかったのが原因ですね。研修講師として何が強みなのか、どんなことができるのか、どの業界に強くてどんな人にどんな効果を与えられるのか…
それが明確になっていないと、たくさんいる研修講師の中で私を選ぶ理由がないですよね。ですので、コンサルで学んだコンセプトを研修講師にも当てはめることで、やっと登壇することができました。
──自分はこういう研修が得意というのがわかるようになったんですね。
自分が何をできるのか、なんて実は自分が一番わからない。ですが、それが一番大事だった。起業塾や起業コンサルで初めて知りました。
先に知っておけよ、ですよね本当に(笑)。独立前に知っておけば、副業をやりながら自分のコンセプトを考えて、どういう商品を作ってどうやって情報発信をしていくのか、考えられたはずです。そういったビジネスの基本をまったく知らずに独立して、稼げなくなったときにやっと勉強し始めたと。
──その時はどんな感情だったんですか?
もう「ヤバイ」としか言いようがなかったです(笑)
独立すると自分で全部できるので、サラリーマン時代のような不満はなくなるのですが、将来や稼ぎに対する不安はすごかったです。サラリーマンなら将来や稼ぎに対する不安はないけれど、いろいろ不満はある(笑)
──たしかに(笑)その不安はどのくらいの大きさなんですか?
一般的には夜も眠れないとか食欲がなくなるとか。それらはなかったですが、事業継続できるかという不安はすごく大きかったです。起業はタイムリミットがあります。キャッシュがなくなったら終わり、サラリーマンに戻らざるをえなくなる期限があるのです。
私みたいな対人支援サービス業としてのコンサルは、飲食や小売りと違って仕入れがないので借金で潰れることはほぼないですが、サラリーマン時より稼げなくて生活できなくなる、それで退場する方は結構います。
よく言われるのが、仮に売上がゼロになっても半年は生きていられるよう独立前に貯金をしておけ。私はそれもなかったので本当に苦労しました。
自分の収入がサラリーマン時代と同水準に戻ったのは、独立して1年1か月後でした。独立する前にコンセプト等を固めておけば半年は縮められたはずです。
コンセプトの大切さ、ビジネスの基本。それに私は気がつかなかった。知らなかった。
周りに独立している人が全然いなかったことで、頼れる人とロールモデルとなる人が見当たらなかった。今思うと本当、無知でした。
──目に見えないものを売るって難しいですよね?
売り方がわからなかったですし、そもそも自分の商品もわからなかったですね。今は難しいとは思いません。
──その後は順調にお仕事が増えていったんですか?
独立当初に立てた1年後、3年後の売上目標は達成できています。
──それはきっと最初の苦労があったからですね。
あの苦労は他の人にして欲しくないです。ビジネスを知っていれば回避できたことですからね。それを私のような苦労した人間が発信していければと思っています。
そうそう、実は今、私と同じキャリアコンサルタントという資格を取得した方向けに、ビジネスの本質を伝えするリベラルコンサルティング協議会という一般社団法人を運営しています。
キャリアコンサルタントの方はあまり稼げていないのが現状でして。それを変えていきたいと色々な活動をしています。
──「キャリアコンサルタント」って最近はよく耳にします。
国家資格ですし、資格自体は人気です。ただ、最近は登録者数が減っています……
中小企業診断士もキャリアコンサルタントも、免許制で有効期限は5年間。国家資格になったのが5年前なので、更新をしないで辞めてしまう方も多くいる状況です。更新の研修料が10万円もかかりますし、この資格を持っていても何もできない、と更新しない人が増えています。
ハッキリ言って、キャリアコンサルタントの資格を取得しても仕事がない。
過去の私とまったく同じです。
資格で稼ごうとするのではなくて、資格をビジネスに活かして稼がないといけない。ビジネスにする必要がある。
資格とビジネスは違います。弁護士や看護師のように資格がないとできない、いわゆる独占業務のある資格であれば話は別です。しかし、私たちキャリアコンサルタントはそうじゃない。中小企業診断士もそうです。
──なんとなく資格を持っていたらなんとかなると思ってしまう部分はあります。
私もそう思っていました。発想を変えないといけない。なので、今は社団法人でそれらのことを発信しています。
──具体的にはどのようなことをやられているんですか?
キャリアコンサルタントのビジネス化講座をこれから始める予定です。ビジネスを全然知らなかったところから始めて、今はうまくいっている私の知識と経験を伝えるものです。
私たちにとっては、失敗とは「ネタ」なんです。失敗を仕入れられたら、それを売ればいいじゃない、ビジネスにしたらいいじゃないと(笑)
売れているコンサルタントの方は失敗ばかり語ります。成功談ばかり語る人は売れていない。
人は失敗話と、そこから成功した秘訣を聞きたいのです。失敗と復活劇、これがセットになっていると、話を聞いてもらえますし、同じような失敗をしている人に好かれます。これがビジネスの種になると思っています。
──森田社長の失敗がいまのビジネスにすごく繋がっているんですね。資格を取るだけではなく、それをどう活かすかを考えないといけないというのはあたらしい気付きになりました。インタビューありがとうございました!